📘 めくるめく恋の気配(SAMPLE)

マリオとあまりとキスにまつわる4つの短編小説を収録した短編集|通販はこちら

いやよいやよも
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魔王と花嫁

 ハロウィン──それは冥界の門が開く日を祝う闇の祝祭だ。
 女子どものプリパラも、いつもと比べりゃ多少は闇のオーラが濃くなっている。森以外の場所に降り立ったのは久しぶりだが、前に感じてたほどのウザったさは感じられなかった。とはいえ相変わらずキラキラベタベタしてて、居心地が良いとは言い切れねえ。
 にもかかわらず、わざわざ俺がここにやってきた理由はただ一つ。この祭りにかこつけて、あまりのほうから俺のことを誘ってきたからだ。俺が復活して以降、あまりがこんな風にアプローチを掛けてくるのは初めてのことだった。
 当日はコレを着てこいとコーデ一式を手渡され、四時に広場のゲート前に来いと告げられた。だから今日は、指定された通りに服を着替え、時間ピッタリに到着し、壁に凭れてあまりが来るのを待っている。いつもなら「約束なんて破ってナンボだろ」と言ってるはずのところだが、俺だって、惚れた女の誘いを無碍にするほど野暮じゃねえ。
 それにしてもあまりのヤツ、どんだけ待たせるつもりなんだよ。大体こういうのは誘ったほうが先に待ってるべきなんじゃねーの? 
 つーか、マントまで付いた正装一式をわざわざ手渡してくるなんて……花でも持ってきてやるべきだったか?

「──あ、こっちにいたんだ! お〜い、マリオ〜!」

 そんなことを考えながら地面に転がる石を蹴っていると、いつになく浮かれた調子で俺の名を呼ぶあまりの声が、少し離れたところから聞こえてきた。
 ──おいおいあまり、そんなに俺に会いたかったのかよ?
 顔がニヤけてくるのをぐっと堪えつつ、顔を上げてあまりの声のするほうを見た瞬間、俺の口からは「ゲッ」と間抜けな声が口を突いて出ていた。
 あまりの周りにはいつか見た面のガキどもがわらわらと群がっていて、何故か揃いも揃ってゾロゾロと俺のいるほうへと向かって来ている。

「わっ、マリオがちゃんと仮装してるぷり!」
「本物のヴァンパイアみたいなの〜♪」
「おぉ、悪魔の最終形態か! 気に入ったぞ、我らの下僕にしてやってもよかろう!」
「チッ、ワーワーごちゃごちゃうるせえよ!」

 俺はガキどもを押し退けながらあまりに駆け寄り、奴らに背を向けながらあまりの肩をグイッと抱き寄せた。

「ンだよおい、二人っきりじゃねーのかよっ!」

 耳元でそう抗議すると、あまりはギャッと叫びながら俺を押し返す。それからしばらくぽかんとした顔で俺のことを見上げていたが、まるで何かに気が付いたみたいに、急にニタニタと意地の悪い笑みを浮かべ始めた。

「……ちょっとマリオ〜、あんたもしかしてぇ、デートだとでも思ったの〜?」
「いや思うだろフツーに!」

 チクショウ、騙された! あまりの言うこと聞いて、大人しく着替えて出てきた俺がバカみたいじゃねーか!
 つーか、デートじゃねえと思ったら急に何もかもどーでもよくなってきちまった。こんな日はさっさと部屋に帰ってダラダラするに限るぜ……なんて思っていると、あまりが取っ手の付いたオレンジのかぼちゃを俺にずいっと押し付けてきた。中には大量の菓子らしきものが詰め込まれている。

「はい、コレ持って」
「あ? なんだこれ」
「お菓子配り係よ。マリオも手伝って?」
「……はぁ〜? なぁんで俺がンなどーでもいいことを……」
「あんた甘いもの好きでしょ、つまみ食いしていいからさ」

 もしかしてこいつ、俺のことを菓子なんかで懐柔できると思ってんのか? そんな手には乗らねーよ、お前じゃあるまいし。

「……それに、せっかくのペアコーデなんだから……」
「あぁ? ペアコーデ??」

 小声でぼそりと呟やかれたあまりのその言葉を、俺は聞き逃さなかった。復唱してて問いただすと、あまりは「なんでもないっ」と言いながら俺からぷいと顔を背ける。
 俺はあまりからかぼちゃを奪い取り、少し体を引いてあまりの服装をまじまじと見返した。黒くてシンプルなチュールのドレスに、同じく黒いベールの付いたワイン色の薔薇の花冠。他の奴らのガチャガチャした服装と比べて、大人びたデザインがあまりの良さを際立てている。
 ま、あまりはセンス抜群だから何を着ててもイケてるんだけどな。なんてったってこの俺様を創造した女だ。俺に寄越してきたこのコーデだって、魔界の王に相応しい重厚感と荘厳さに満ちあふれている。普段、俺に対してダサ〜いだのウザ〜いだの言ってくる割に、結局俺に似合うもんをよく知ってるのもあまりっつうワケだ。
 それにしても、これでペアコーデっつーのは一体どういうことなんだ? 別に対称性のあるデザインっつーわけでもねぇし。それともなんだ、──もしかして、今日のお前は俺の花嫁ってコンセプトなのか?

「……あまり、お前……めちゃくちゃかわいいな!?」

 思ったことを思ったままそう口にすれば、あまりは頬を赤らめながら、何故か不貞腐れたような顔をする。そういうとこもグッと来るぜ、と愛おしさを噛み締めていると、あまりの横に突っ立っていた青髪のガキが急に口を挟んできやがった。

「へぇ〜、マリオも人のこと褒めたりするんだ〜。ま、でもボクのほうがよっぽど可愛いけどね!」
「あぁ? どーでもいいぜ……つーかお前誰だよ」
「はぁ〜!? このボクに向かってなんてこと言うんだよっ!」
「まあまあドロシー、テンションリラックス〜……」

 ガンを飛ばしてくる青髪と睨み合っていると、やたらとなげえ紫の髪をしたヤツがどこかから飛び出してきて、俺とあまりの横に立ちはだかった。

「でもでも、マリオの言う通り、今日のあまりのコーデ、本当にかわいくて素敵だよ!」
「えっ!? ……えへへ、そうかな……?」

 そいつの言葉を聞いたあまりの表情が、ふにゃりと和らぐ。それから、少し恥ずかしそうに顔周りのベールを撫でつけた。そんなあまりの仕草を見ていると、今すぐ掻っ攫ってどっかに隠しちまいたいような気持ちと、これが俺の女だぜと世界中に見せびらかしてやりたい気持ちがごちゃ混ぜになってくる。

(後略)


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ビター・スイート・チョコレート

(前略)

 あたしがマリオの部屋に入り浸るようになったのは、先々週くらいからのことだった。
 いつものようにほとんど拉致みたいな状態でマリオの部屋に引きずられて行くと、その片隅に見慣れない棚が増えていることに気が付いた。ちょうどカラーボックスみたいな、三段くらいの小さな黒い棚だ。近寄って中を覗き込むと、そこには漫画や雑誌がぎっしりと収納されていた。

「あー、ソレ、こないだ急に生えてきたんだよな」

 しげしげと棚を見つめるあたしに、背後からマリオがそう話し掛けてくる。──生えてきた? って、何?

「中身も時々勝手に変わるしよぉ。ま、退屈しねえからいーんだけど」
「な、なにそれ……」

 どうやら目の前の本棚は、あたしの知っている本棚とは全然違った機能が搭載されているらしい。もしかして、コレもいわゆる〝システム〟ってやつ……? まあ、プリパラって不思議なことばっかり起こるし、どうせ意味なんてないんだろうけどさ……。
 そんな奇妙な本棚のラインナップは、昔読んで面白かった漫画や、気になっていた漫画ばかりだった。これがタダで読めるなら、ここに来るに越したことはない。ということでそれ以来、無料の漫画喫茶代わりにマリオの部屋で暇つぶしをする頻度が増えた。
 この頃はどの部活も秋の試合やコンテストに向けて忙しいらしく、万年帰宅部のあたしは、学校の友だちともあんまり予定が合わない日が続いていた。それもあって、学校が終わり次第プリパラに行き、五時ぐらいまで普通に遊んだあと、閉園までの一時間弱をマリオの部屋で過ごすのが、最近のあたしの放課後ルーティーンと化していた。

(中略)

「ねえマリオ──」

 オタク心に火が付いて、思わず隣りにいるマリオにもその話をしようと思ったけど、マリオの名前を呼んだ瞬間に、はたと言葉が止まってしまった。
 そもそもマリオが、このアニメのこと知ってるわけなくない?
 よくよく考えてみれば、原作とアニメの違いの話みたいな繊細な話をマリオが理解できる気もしなかった。ていうか、この漫画がマリオの本棚にあったからって、マリオが読んでいるとも限らない。それに、もし億が一読んでいたとしても、こんな恋愛ものの作品にマリオが一体どんな感想を持つのか、さっぱり想像が付かなかった。
 平たく言えば、会話が盛り上がるイメージが一ミリも湧かないのだ。

「……ごめん、やっぱなんでもなかった」

 そう呟いたあたしを怪訝そうな目で睨んでから、マリオはテーブルの上に置かれた板チョコに手を伸ばした。
 マリオがあたしに対して好意を抱いていることは、正直誰の目から見ても明らかなことだと思う。やたらと好きだ好きだと言ってくるし、スキンシップも多いし、その……キスとかだって平然としてくるし。けど、その好意の形が具体的にどういうものなのか、あたしは未だによく分かっていない。それこそ、ペットが飼い主に対して抱く愛情や、家族愛みたいなものの可能性だってまだほんの少しある気もするし、でも、もしそういう感じなのだとしたら、表現方法が間違っているであろうということを教えてあげなきゃいけないのかな、と思ったりもする。
 そもそも突然この世に引っ張り出された存在だからなのか、マリオにはいわゆる常識ってものが備わり切っていなくて、めちゃくちゃ困るってほどではないにしても、驚かされることがしょっちゅうあった。とはいえ、融合する前よりかは多少マシになっているような気もする。
 出会った頃のマリオは、あたしに執着している割にはどこを見ているのかよく分からなくて、なんていうか、ちょっとバケモノみたいだとすら感じていた。でも、今のマリオはちゃんと今のあたしのことをまっすぐ見てくれている気がするし、あたしは多分、マリオのそういうところに絆されちゃっているんだと思う。
 横目でマリオの方を見ると、マリオは板チョコの銀紙をベリベリと雑に剥き、そのまま丸かじりで咀嚼していた。
 ──ほんとコイツ、いつ見てもチョコばっか食べてるな。あと、板チョコ丸かじりして食べるの、ちょっといいなぁ。
 板チョコを直接かじってみる食べ方って、いつもやってみたいと思ってるはずなのに、実際に板チョコを食べるときにはボキボキ割ってから銀紙を開けてしまうので、まだ一度も挑戦してみたことがない。

「……ねえ、それあたしにも一口ちょうだいよ」

 そう声を掛けると、マリオはチラッとこっちのほうを見たくせに、あたしの言葉を無視してまたチョコをかじった。
 ──なによ、どうせチョコなんて大量に隠し持ってるんだから、ちょっとぐらい分けてくれたっていいじゃん。マリオのケチ!
 そんな風に文句を付けるのももはや面倒で、あーもう漫画を戻して家に帰ろう、と思った瞬間、急にマリオがあたしのほうにグッと顔を寄せてきた。

「ん」

 そう言って突き出されたマリオの口には、ひと欠片ぶんのチョコが咥えられている。
 いつもなら、バカじゃないの、とか言いながら適当にあしらってやり過ごすことができたはずだ。でも、恋愛ものの漫画を読んで、マリオはあたしのことどう思ってるんだろうとか、そんなことまでうっかり考えたりもして──そんな状態だったから、あたしもちょっとバカになっちゃっているんだと思う。
 マリオの口元に合わせて顔を少し上げて、こっちに向けられたチョコの角を唇で喰んだ。そのまま上手く受け取って顔を離すつもりだったのに、ゆっくりとチョコを口の中に押し込まれながら、いよいよ唇同士がむにゅりとくっついてしまった。しかも、下唇に舌の先を押し当てられている。
 キスの最中にこういうことをされるのも、実は初めてではない。ただ、一体どう受け入れればいいのか分からなくて、今までは唇をぎゅっと一文字に結んでやり過ごしてばかりいた。
 でも今日は、なんとなくの好奇心というか、出来心というかで、本当に少しだけ、唇の力を解いてしまったのだ。

(後略)


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(Don’t) Make a wish upon a star

(前略)

「ねえ、ホログラムでも流れ星にお願いごとするのって意味あるのかな?」
「さぁな、どうでもいいぜ……」
「まーたそういうこと言って……でもそうだよね、マリオが知ってる訳ないかぁ」

 そう言われると若干ムカつくが、事実ではある。確かに俺はここプリパラで実体を得たし、それ以降基本的にはずっとここに閉じ込められてるけど、プリパラの仕組みだのなんだのは一切分かんねえし、ぶっちゃけどーでもいい。

「つーか、ホログラムってなんだ?」
「んーと……映像? レーザー……? とにかく、プリパラの空は本物じゃないってこと」
「本物じゃないのにわざわざ見んのかよ」
「偽物でも、綺麗なものは見たいじゃん。それに、なんていうか……偽物のほうが綺麗に見えるときもある、みたいな?」
「フーン……」

 本物だか偽物だか知らねえが、俺は夜空なんかを眺めるよりも、あまりのことを見つめていたかった。星が降るっつーのは確かに多少は珍しいが、ここの夜空なんて毎日飽きるほど見てるから、今更感動なんてもんはねえ。
 でも、あまりは違う。ずっと見てても全然飽きねえし。ただ、ずっと見てると、見てるだけじゃなくて触りたくなる。今だってそうだ。触って、抱きしめてキスしたい。
 そっと手を伸ばして、空ばかり見上げてるあまりの白い頬に掌を当てる。そのまま親指で唇をふにふにと押すと、あまりは眉間にシワを寄せながら俺のことをじろりと睨んだ。

「ちょっと、なにすんの……あっ! ほらもう、今また流れちゃったじゃん……!」
「さっきからボロボロ降ってんだから別に一個ぐらいどーでもいいだろーが」

 そう返すと、あまりは心底呆れたみたいな顔をしながら溜め息をついた。でもすぐに、また空のほうを向いて、熱心に流れ星を探し始める。

「ていうかさ、マリオは願いごととかないわけ?」
「あー……あるにはあるぜ。しかも今すぐ叶えられるやつな」
「はぁ? なによそれ──」
「あまりとチューしたい」

 俺の言葉を聞いたあまりの動きがピシリと止まった。かと思えば、バネみたいに体を起こし、目を大きく見開いて俺のことを見つめてくる。薄暗いからよく分かんねえけど、多分顔も赤くなってきてんだろうな。俺の言葉一つで、あまりの表情はコロコロ変わるから面白い。やっぱり、星なんかよりもあまりを見てるほうがよっぽどいいぜ。
 あまりに合わせて俺も体を起こして、寝転がってたときよりも距離を詰めると、硬直していたあまりが急に俺から目を逸らして、少しだけ口を尖らせた。

「……したことあるし、……いっつも勝手にしてくるじゃん……」

 いつもの覇気はどこへやら、もじもじボソボソ呟いたのち、結局あまりは下を向いてしまった。
 初心なフリしやがって、と思うけど、実際こいつは意外とマジで初心だ。かつてあまりの内に秘められていた欲望と現実とのギャップに、正直俺もちょっと驚いたところはある。

「いや、そういうことじゃねーだろ」

 両肩をぐっと掴んで俺のほうに向き直させてみるけど、あまりは頑なにじっと俯いたままだ。

「それに、たまにはあまりのほうからしてくれたっていいじゃねーか、なあ?」

(※サンプルここまで/続きは同人誌でお楽しみください!)

 

 

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