📘 Daylight Rendez-vous(SAMPLE)

ちょっとだけまっすぐ向き合えた、真っ昼間のデートの話|通販:フロマージュ


『──クソすぎた元彼エピソ〜ド〜! パチパチパチパチ〜……ってわけで、今日はちょっとね、ギリギリな話もやってっちゃおっかなと思うんだけど──』

 放課後、学校の近くの公園。あたしは、クラスメイトのりいなちゃん・みずきちゃん・こはるちゃんと一緒に、屋根の下にあるテーブルとベンチを占領し、一つのスマホを眺めながら持ち寄ったお菓子をちまちま摘んでいる。
 画面に写っているのは、二十代前半の女性プリチューバー二人組だった。恋愛お悩み相談系で人気急上昇中のチャンネルらしい。あたしはそんなに興味ないけど、りいなちゃんとみずきちゃんが最近ハマってるらしくて、ちょうど昨日公開されたばかりの最新動画を再生し始めたところだった。

『あのさ〜、これおんなじDMめっちゃ来てたんですけど(笑)、〝会うたびにやたらとヤリたいオーラ出てて最悪だった〟』

 唐突に耳に飛び込んできたワードに動揺して、口に運ぼうとしていたプリッツが手の中でポキっと折れた。

『──やだ〜ちょっと、ほんと超あるあるだよね!?』
『〝デートが毎回家かホテル〟ってのも超来てたけど、ヤリモク男多すぎ問題、マジで深刻ですから!』

 頭の後ろのほうから血の気がサーッと引いていく気配がする。デート……デート? 別にデートではないな? いや、でもとにかく、毎回決まって部屋で会っているのは、そう。それに、高確率でそういう……流れになるのも、そう。しかも──。

「え待ってウケる、マジでタイムリーすぎるんだけど!」

 遠のきかけていた意識が、りいなちゃんの声でハッと引き戻される。あたしは頭をブンブンと振って、脳を支配していた邪念を無理やり振り払った。

「前にさー、バ先のカフェにかっこいい大学生入ってきたって言ったじゃん。そしたらこないだ休憩中に、『りいなちゃんの二の腕やわらかそ〜』とか言って急に腕触ってきて……」
「ギャー! やだ、キッッッッモ!!」
「ラインもなんか、下ネタ? までは行かないけど……みたいなの送られてきたりしてて……はぁ〜、もうバイトやめよっかな……」
「いや、それはそいつがやめるべきであって、りいながやめる必要はなくない?」

 こはるちゃんの正論に、一緒になってウンウンと頷く。なんていうか、普通に何らかの法に触れてそうな気もするし。

「てかさ、そういえば隣のクラスの優子ちゃんも、付き合ってた先輩がヤリモク全開過ぎて無理になって別れたって言ってたし。なんか最近マジでそういうの多くない?」

 みずきちゃんがため息交じりに呟いて、パックのジュースをチュッと吸い上げた。
 ──ちょっと待って、みんなそんな普通に明け透けな話をしてるわけ!? 怖い!! ていうか、ここであたしが余計なことを言ったら絶対ボロが出る。とにかく気配を消して、この話題が通り過ぎていくのをやり過ごしていくしかない……。

「それで言うとこはるのとこの彼氏は超マトモだよね」
「まあ……うちんとこは親同士も付き合ってるの知ってるからさー」
「そういえば、あまりちゃんは最近あの幼馴染くんとどうなってんの?」

 と、黙り通す覚悟を決めた瞬間、りいなちゃんから剛速球のような質問が飛んできた。
 ──え、幼馴染って誰? ……あ、マリオのことか……え!? やだ、ほんと待って、今はそのこと考えたくないんですけど……!
 大混乱のまま固まっていると、みんなが不思議そうにあたしの顔を覗き込んでくる。

「……あまりちゃん?」
「え!? あ!? あたし!?」
「どーしたの、顔色ヘンだよ?」
「あー、もしかして、幼馴染くんもそういう感じだったり……」
「いやいやいや! 絶対ない! そんなたこはなすび(そんなことはない)……っ!」
「……え? なんて?」
「わ、ま、間違った……!」

 今すぐこの場から逃げ出したくてたまらないけど、三人があたしを見つめる目には悪意なんてこれっぽっちもなく、──しかし、好奇心がダダ漏れているのがひしひしと伝わってくる。

「なんかあったら、うちらなんでも話聞くからさ!」

 そう言ってみずきちゃんがあたしの肩をポンポンと叩く。
 でも、みんなには本当のことなんて、絶対言えるわけがなかった。だって、マリオとあたしってば、付き合ってるわけでもないのに、もう何回もそういうことを……しかも、どっちかって言えば多分あたしのほうが……いや、違う! ああもう、本当に最悪だ〜……!!


◇ ◇ ◇


 そもそもの問題として、これはあたしがマリオの部屋に行かないようにすればいいだけの話だって分かってる。でも、プリパラに行って、マリオに会って部屋に来いって誘われちゃったら、まぁ、ちょっとぐらいなら行ってあげてもいいかなぁ、なんて思ってしまうのだ。断る理由があんまりないし、元々はなんというか……そーゆーコト(﹅﹅﹅﹅﹅﹅)もせず、普通に入り浸ってたわけだし。
 それで、実際にあの部屋に入ってみると、マリオは大体あたしの周りをうろうろしてるか、ぴったり隣に座ってきたりするので、何となくソワソワしてしまう。で、そのうちあたしに優しく触れてきたり、キスとかをしてきて……そうなると、もう何もかもがどーでもよくなっちゃうのだ。そして、なんやかんやで体を許してしまう。
 でも、スキンシップこそあれど、マリオのほうから明確に「したい」と誘ってくることは、実はあんまりなかったりもして──あたしにとっては、ある意味それが一番の問題だった。
 あいつってば、椅子に座って体同士がべったりくっついていても、全然手を出してこないときすらあるのだ。それで、あたしのほうからさり気なく、そっち(﹅﹅﹅)へ持っていったことが何度かある。マリオと二人で甘ったるい雰囲気になってしまうと、心臓がむず痒くて、なんとも耐え難くて……反面、そーゆーコト(﹅﹅﹅﹅﹅﹅)に持ち込んじゃえば、途中からは何がなんだか分からなくなって、余計なことを考えなくていいからラクっていうか──ああ、我ながら最低すぎる……。


(中略)

 もっと友だちみたいな感じでいれたら、こんなに困ることもなかったのかな、なんてことを考えたりもするけど、だとすればどこが分岐点だったのか、あたしにはさっぱり分からなかった。

(中略)

 とにかく、今のあたしに大事なのは、マリオと二人でいても変な空気に流されてしまわないこと、なんだと思う。多分そう、きっとそう。そうに違いない!
 そのためにも、まずはやっぱり、マリオの部屋に寄り付かないようにするべきなんだ!



 そう心に決めたのが昨日──金曜の夜。そして土曜日の今日、あたしは珍しく午前中からプリパラにログインしてみることにした。
 プリパラでマリオと出くわすシチュエーションについて思い返してみると、その多くはログイン直後の落下中か、森の中を歩いているときだった。ごくごくたまに、広場にあたしを探しに来ることもあるけど、それはかなりのレアケース。
 あと、あたしが何か別のことをしてるときは、なぜかあいつはわざわざ部屋に誘ってこなかった。他の誰かと一緒にいるときは、遠巻きにあたしのことを見ているか、そのままどこかにいなくなってしまうし、あたしが一人だったとしても、あたしの周りをふらふらしてたり、近くに来てあたしのしていることを見守っているばかりだった。
 それはつまり、出くわしやすい場所やタイミングを避けることができれば、とりあえずはマリオの部屋に連れ込まれる可能性がグッと下がるということだ。
 そこに、マリオの生活パターンをかけ合わせてみる。本人の話を聞いている限り、マリオはほとんど毎日夜通し起きていて、明け方になってやっと眠るような生活をしているらしかった。つまり、この時間ならきっとまだあいつは眠っていて、顔を合わせることもないだろう。
 ポォロロちゃんに会いたいから森に行かないという選択肢は選びたくないし、森を避けてもログイン中に捕まる可能性があるなら、時間をズラしてマリオに捕まる確率を下げるのが大前提になる。ついでに予定を詰め詰めにしておけば、万が一出くわしてもきっと無闇に邪魔してこないに違いない!
 そんなベストシナリオを思いついたものの、まさかそんな簡単に上手くいくはずがないって心のどこかで思ってしまう自分がいた。でも、脳内で何度も何度もイメトレした通りに行動してみた結果、あたしはマリオに捕まらないまま、ポォロロちゃんと森でのパシャリングを済ませ、更にはソロでのライブまで終わらすことができてしまったのだった。
 休みの日って、前日思いっきり夜ふかしして、次の日はそのまま昼過ぎまでダラダラ寝過ごすのが一番だって思ってた。けど、こうやって早起き……とまではいかないけど、午前中から活動的に動いてみるのもなかなか悪くない。ていうか、もしかしてこれがいわゆる朝活ってヤツ? そういうのってあたしには絶対無縁だと思ってたけど、こんなあたしでも上手くいっちゃうことがあるんだ……!
 じわじわと自己肯定感が高まって、思わず鼻歌が漏れ出してくる。気分もいいし、ちょうどお腹も空いてきたし、このままカフェにでも行こうかな。せっかくだし、今日はスペシャルランチコースを頼んでみちゃったりして! でも、どうせなら誰かと一緒に食べたいな……そろそろ誰か広場に来てるかな?
 そんなことを考えながら、広場に繋がる芝生の上をルンルンでスキップしていたときだった。

「おっ、あまりぃ〜!」

 今、一番聞きたくなかった声が頭上から聞こえてくる。
 空耳であってほしい、なんてかすかな希望を抱きつつ、振り返りながら空を見上げるけれど、祈りも虚しくそこにはやっぱりあいつの姿があった。

「……ゲッ、マリオ!?」
「ゲッてなんだよォ、何もしてねーのにいきなりひでぇんじゃねーの?」

 マリオは至極不満そうな顔をしながら、あたしの隣に降り立ってくる。
 ──いや、確かにそれはごめんだけど。
 なんだけど、素直に謝るのはなんだか癪だし、笑って取り繕うのもヘンな感じで、あたしはマリオからちょっと目を逸らして顔を顰めていることしかできなかった。
 別に、会うのが嫌だった訳じゃない。ただ、自分の覚悟が揺らぐのが不安で、それなら最初から会わないほうがいいかもって思ってただけで。

「……なんで来たのよ」

 間が持たなくてとりあえず発した言葉すら、かなりぶっきらぼうな調子になってしまった。本当はこんな言い方しないほうが良いって分かってるのに、マリオの前だといつも以上に感情のコントロールが上手く行かないときがある。
 でも、マリオはそんなあたしに気を使うこともなく、雑な調子であたしの肩に腕を回してきた。
 それに対して、あたしはマリオの脇腹を肘で小突いて抵抗する姿勢を見せる。でも、実際に嫌ってわけでもなくて──むしろ、素直になれないあたしに対して普通に接してくれているマリオに、どこか少しホッとしているのも事実だった。

「あまりの歌声が聞こえてきたから来たんだよ。……なぁ、あまり、この後暇か?」

 そう言いながら、マリオはあたしの肩を抱く力を強めてくる。
 ──うひゃあ、やばいやばいやばい、このままだと結局いつもと同じことになっちゃうよ〜!

「えっと、そのー、……あたし、今から、お昼ご飯を食べる予定があって……」
「ほーん。誰かと約束してんのか?」
「ええっ、それは……」

 言い淀んでいると、マリオはすかさず「んじゃ一緒にメシ食おうぜ!」と、まるでものすごい発見でもしたかのように、妙にイキイキと提案してくる。
 ──ま、まぁ、ご飯くらいならいっか。でも、じゃあどこで? こいつのことをカフェに連れて行くわけにもいかないし、今日だけは絶対にあの部屋には行きたくないし……。
 頭をぐるぐるさせながら悩んでいると、突然、天啓のようなアイディアがピコーンと脳内に浮かんできた。

「……あ! あたし、ダンプリに行ってみたいかも!」

 マリオの部屋とその付近にはまあまあな頻度で行ってるし、走ってるうちに間違ってダンプリのライブ会場まで行っちゃったことはあったけど、あたしはまだ、正規ルートでまともにダンプリに入ってみたことがなかった。ちゃんと手続きをすれば行ける方法があるっていうのは知ってるものの、わざわざそうやって出向く理由がなかったからだ。

「ねぇマリオ、どうかな?」
「……いいぜ、案内してやるよ」

 そう言って、マリオはいつもみたいにあたしのことを抱き上げようとしてくる。

「あーっ、ダメ〜! 今日は正規ルートで遊びに行ってみたいの〜!」
「ハァ? めんどくせぇな、どーでもいいじゃねぇか」
「どーでもよくない! ほら、あんたは先に戻って待っててよ! じゃないと一緒にご飯食べないんだから〜!」

 脅し文句を使いながらジタバタ暴れ、なんとかマリオを引っ剥がすことに成功したあたしは、いつか誰かから教えてもらった〝ダンプリと繋がる入口〟のほうへと小走りで足を進めた。



「羊の着用をお願いします!」

 めがボーイに指示されるがまま、羊の着ぐるみを着てゲートを潜る。
 ところで、この羊のコーデ。可愛いけど、そう、確かに可愛いんだけど……なんていうか、あたし、本当にこの格好で今からダンプリに滞在してなきゃなんないの……?
 例えば、これをゆいちゃん着てたらめっちゃ可愛いんだろうなぁ、っていうのは分かる。でも、あたしが着ると……ウーン、どうなんだろう。
 そんなことを思いながらゲートの外に出た瞬間、さっそくマリオが視界に飛び込んできた。うわっビックリした、と声が出るよりも早く、マリオが目を見開いて、あたしの頭のてっぺんから爪先までを舐め回すように見つめてくる。そして一拍置いてから、腹を抱えてゲラゲラと笑い出した。

「ヒーッ、なんだよその間抜けな格好はよぉ!」
「う、うるさいなぁ……! システムなのよ……!」

 マリオはひとしきり笑ったあと、なぜかあたしの肩にポンと手を置いて、髪を掻き上げるみたいな変なポーズを取り出した。

「まぁ、迷える子羊の魂を救ってやるのも俺の使命、ってやつか……」

 ──ううっ、意味わかんないことブツブツいいながら悦に浸るの、やめてもらいたいんだけど、マジで……。
 マリオの言動に過ぎ去りし中二時代というコンプレックスを刺激されて、ここに来てしまったということそのものに対してまでうっすらと後悔が滲み始める。でも、そんなあたしの内心なんて一ミリも気にしないまま、マリオは勝手にツカツカと歩みを進めて、これ見よがしに振り返りながら「置いてくぞ」なんて言ってくるのだ。わざわざやってきて置き去りにされるなんて、たまったもんじゃない。あたしはブンブンと左右に頭を振ってから、小走りでマリオの後を追いかけた。
 マリオがどこに向かおうとしているのかも分からないまま、あたしは見慣れない町並みを眺めるのに必死だった。男子のプリパラって、なんていうか……全体的に、街が荒れている。ゴミもそこそこ落ちてるし、壁にはスプレーで落書きがされてたりするし。
 でも、あたしにとっては、それも案外悪くないと思えた。少年漫画とかアクションものの映画とか、かなりハマってた時期もある──というか、今でもたまに見るけど、そういう作品の世界観っぽい。なるほど、男の子の憧れってこういうことなのね。女の子のときめきが詰まったキラキラした女子のプリパラとは全然違うけど、ダンプリにはダンプリの良さがあるんだってことがよく分かる。
 そんなことをぼんやり考えているうちに、少し前を歩くマリオはどんどん細い路地へと入り込んでいって、後について角を曲がるたび、ただでさえ荒れ気味だった街の空気がどんどんと荒んでいった。人の気配もほとんどしなくて、とてもじゃないけど女子一人じゃ歩けないような雰囲気だ。
 ビビリ半分、好奇心半分のまま、マリオから離れないように距離を詰めて歩いていると、急にマリオが立ち止まったせいで、その肩にぶつかりかける。

「わっ、何よいきなり……!」
「メシ、ココで食おうぜ?」

 そう言ってマリオがドアに手をかける。仰ぎ見た建物は、古びたアメリカンダイナー風の出で立ちをしていた。



 OPENの看板はかかっているものの、ガラス越しに見える店の中には誰もいない。それに、電気も点いてない──いや、よく見たら点いてるには点いてるけど、ところどころ蛍光灯が切れかけてチカチカしてる。マリオの後について恐る恐る店の中に入ってみると、むしろ窓から入ってくる光のほうがよっぽど明るくて、これならいっそ電気なんて切っちゃえばいいのに、なんてことをついつい思ってしまった。
 マリオは無言のまま店の奥まで歩いて行き、大きなジュークボックスの向かいにあるボックス席にドカッと座り込んだ。その様子を呆然と見つめていると、マリオが向かいの席を顎でクイッと指してきたので、おずおずとそこに腰掛ける。

「……あ〜ら、マリちゃんじゃないのぉ〜?」

 ふと、どこからともなく低く艶めいた声が聞こえてきた。店の中を見回すと、カウンターの奥の厨房らしき場所からぬっと人影が現れてくる。モデルみたいに背が高くて、ボリューミーなポニーテールをたゆたわせた、濃いめのメイクがバッチリの……あれ、もしかして、男の人……?
 あたしたちのテーブルにつかつかと歩み寄ってきたその人は、体にピッタリ沿ったセクシーなウエイトレスの制服を着ていて、ただでさえ背が高いのに、更に二十センチくらいあるんじゃないかって高さのピンヒールを履いていた。ドラァグクイーン、って言うんだっけ? テレビとかネット以外で見るのは初めてだ。やけに寂れた店の中、この人だけが異様にファビュラスで、神々しいオーラのせいでもはや光って見える。

「今日は一人じゃないのね」
「まーな」
「珍しいじゃない」

 その人は気怠げに腕を組みながら、流し目であたしに目線を送る。目が合った瞬間、重たそうな付けまつげが何故かふっと少し持ち上がった。そして、マリオのほうへと視線を移してニヤリと笑う。

「もしかしてこの子……まぁいいわ。いつものでいいの? 二人分?」
「おー」
「ウフフ、楽しんでって頂戴」

 マリオと話しているはずなのに、その人はなぜかあたしに向けてバチコンとウィンクを飛ばしてくる。そして、向かいに置かれたジュークボックスの電源を入れ、再び厨房の奥へと姿を消してしまった。

「ヘンなおっさんだよなァ」
「ちょ、ちょっと、おっさんって……!」
「ま、でも悪いヤツじゃあないぜ」

 そう言いながらマリオが席から立ち上がり、ジュークボックスのボタンを押した。ぼんやりと光るジュークボックスの中からカタカタと歯車が回るみたいな音がして、しばらく経つと少し籠ったような響きの音楽が聞こえてくる。聞いたことがあるようなないような、英語の歌詞のロックの曲だ。

「……すごいね。なんていうか、本格的」
「なかなかイイだろ? 気に入ってんだ」

 そう言いながら再び向かいに腰を下ろしたマリオはテーブルに肘をつき、掌に顎を乗せた格好であたしのことをジッと見つめてくる。
 普段なら中二病臭くて痛いと思っちゃうようなマリオの格好も、今この空間にはぴったり合っていて、まるで映画のワンシーンみたいだった。ていうか、ただでさえ顔はかなりあたし好みなのだ。普通の男の子と比べてもかなり整った顔にこんな風に見つめられていると、どうしようもなく心拍数が上がってきてしまう。
 体の内側を蝕むモゾモゾ感に耐えきれなくなり、マリオから顔を背けて窓の外を見ようとすると、少し曇ったガラスの上に、羊の着ぐるみを着たあたしの姿がうっすら反射していることに気付いた。その瞬間、ドキドキ跳ねていた心臓が、スンと落ち着いていくのを感じた。
 あーあ、どうせならやっぱり羊じゃなくて、もっと違う格好で来たかったな。こんなお店に来るって分かってたなら、レトロなAラインのワンピースとか、アメカジっぽいコーデとか。……いや、ここダンプリだし、システム的に無理か。
 ため息をつきながら、頭の部分に付いた丸いツノを撫でて、目線を机の上へと落とす。すると、マリオがバツの悪そうな調子で「なあ」と声を掛けてきた。

「……なによぉ」
「さっきは笑っちまって悪かったな。……その、似合ってる、とは言わねーけど」

 その口ぶりに、うっかり吹き出しそうになってしまうのを、口の中をぎゅっと噛んで堪える。マリオってば、バカ正直がすぎるでしょ。でも、あたしだって、コレが自分に似合ってるとは思えないし。それに、万が一似合ってるだなんて言われたところで、特に嬉しくもないのも事実だった。

「ほら、いつものコーデとか、ライブの衣装とか、好きだぜ?」
「……うん」
「だからその……あー」

 マリオが頭をバリバリ掻きむしる。なんだろ、柄にもなく慰めようとしてくれてるのかな?

「気に入ってもねぇ服を着てまで、ここに来てくれた、ってことだろ?」
「そう……だね」

 返事を返すと、姿勢を変えて前のめりになったマリオが、あたしの顔をしげしげと見つめ直してきた。それからそのまま、ニヤーッと悪そうな笑みを浮かべる。

「あまりってホント、俺のこと大好きだよなァ」
「……はぁ!? 何言ってんの!?」


(※サンプルここまで/続きは同人誌でお楽しみください!)

 

 

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