🎂 My birthday, our birthday

あまりがマリオの誕生日を設定していない、という捏造設定かつマリオがしれっと復活した後の話です。いつもの作品と比べて恋愛要素は少なめです!

2026.02.28

 あたしの誕生日は二月二十九日で、うるう年にしか存在しない日だ。もしかしたら、あたしのこの〝余り物人生〟は、この誕生日から始まったものなのかもしれない。
 そして、今日は二月二十八日。形式上、前倒しで誕生日祝いをすることが多い日。法律的には、二十九日生まれの人間は二十八日を超えた瞬間に歳を取る、ということになってるらしいので、本当なら三月一日に祝うのが正しいのかもしれない。でもあたしの家では、うるう年以外のあたしの誕生日のお祝いは二十八日に執り行われるのが常だった。友だちから祝われた記憶も──もはや遥か昔、小学生時代のことだから薄ぼんやりとした記憶でしかないものの、やっぱり二十八日に祝われていたように思う。中学の頃は、友だちなんて一人もいなかったし、この誕生日についても「孤高でカッコいい!」とか「選ばれし日!」とか思って孤独に酔っちゃってたから、正直今話にもならないけど。
 そして、高校生になり、最近ではやっとクラスでも友達と呼べるような存在ができて、やっとまた家族以外の誰かから「誕生日おめでとう」なんて言われちゃうかも……!?──なんて淡い期待を抱いていたのに、なんと今年の誕生日は土曜日に被ってしまったのだった。まぁ、自分からみんなに誕生日を開示する機会もなかったし、多分みんなあたしの誕生日なんて知らないだろうから、平日だったところで誰も祝ってくれなかった可能性のほうが高いような気もする。ただ普通に誕生日を迎えただけなのに、なんとなく〝ツイてない〟感じがしちゃうのが、いかにもあたしらしくて情けない。
 それでも、プリパラに行けばもしかしたら……という淡い希望が脳裏を掠めたものの、変に期待して裏切られたときのことを想像したら、流石に居た堪れない。それに、実際そんな目に遭う可能性は、きっと普通の人よりずっとずっと高いに違いない。
 だから、誕生日なんて知りませーん、みたいな顔でプリパラにログインしたんだけど──。


「……あーっ、あまりちゃん来たよーっ!」

 広場に着いた瞬間、人だかりがドッとあたしの方に押し寄せてきて、思わずファイティングポーズで身構えてしまった。

「あまりちゃん、誕生日おめでとう!」
「お誕生日プロミス、楽しみにしてるね〜」

 プロミスの度にいつも来てくれている子、何度か挨拶をしたことがある子、それから、初めて見る子まで……気が付いた時には、ざっと三、四十人くらいの女の子たちがあたしのことを取り囲んでいた。

「……えっと、あの、そのぉ……あ、ありがとう……!」

 完全に予想外の出来事過ぎて何度も頭が真っ白になりかけたけど、どうにか気を取り直して感謝の気持ちを伝えながら必死に頭をペコペコ下げる。そうしているうちに、少し離れたところから聞き馴染みのある声があたしの名前を呼んでいることに気が付いた。

「お〜い! あ〜まり〜!」
「あっ、らぁら……!」

 顔を上げると、人の波を掻き分けながらあたしの方へ向かってくるらぁらの姿が見えた。その後ろにはみれぃとそふぃもいるようだった。

「あまり、誕生日おめでとう! いつにも増してすんごい大人気だね!」
「え、えへへ、それほどでも……」

 こんな風にそらみスマイルの三人に誕生日を祝ってもらえるなんて、過去のあたしに伝えたら絶対信じてくれないんだろうな……。ていうか、正直今だって物凄く不思議な気分だ。たった一年も経たないうちに、自分の人生がここまで変化したと思うと、夢でも見てるんじゃないかって思ってしまう。

「ところで、あまりの誕生日って、えーっと……うる、うるる……?」
「〝うるう年〟ぷり」
「そうそう、うるう年だ! すっごく珍しい誕生日だよね、四年に一度だけある日なんて……」
「あ、あはは……そうなんだよね、……いやぁ、誕生日までカレンダーに載ってないあまりものなんて、めちゃくちゃあたしらしいって言うかぁ」
「えーっ、あたしはとってもステキだと思ったけどなぁ」
「そうぷり〜、特徴的な誕生日に生まれたことも立派なアイドルの素質ぷり!」

 そう言うらぁらとみれぃの表情は笑っているけど真剣そのもので、ただ慰めるためだけに言っているようには聞こえなかった。自分のこの誕生日に引け目を感じているのって、もしかしてあたしだけなんだろうか?

「それで、あまりは今日はどんなプロミスをするの?」
「あぁ、それが……こんなことになると思ってなかったから何も考えてなくて……っていうかそういえばあたし、まだマネージャー見つけれてない……!」
「それなら大丈夫! クマさんが代理で手伝ってくれるって言ってたよ、ね、クマさん!」
「もちろん、ミーに任せるクマ〜!」


 パシャリングにサイン会、握手アンドトーク会と、クマさんが予約してきてくれた様々なプロミスを半日掛けて全てこなした。自分で言うのも何だけど、いかにもアイドルの誕生日会イベントって感じだ。最後に開いたライブはいつも以上に盛り上がり、会場中から「おめでとう」の声が聞こえてきて、あまりの感動に思わず少し泣いてしまった。


 ライブが終わり、そらみスマイルの三人とカフェに移動して誕生日ケーキを食べていると、店先に設置されたモニターから「お誕生日アイドル紹介」のコーナーが流れ始めた。

『──以上、2月28日がお誕生日のアイドルでした! 続いて、2月29日がお誕生日のアイドルの紹介です♪』
「わ、見て見てあまり! さっきのライブがもう流れてる~!」

 あたしのライブのダイジェスト映像をバックに、三、四人のアイドルの名前が読み上げられる。リアルでは出会ったことないけど、プリパラにはあたし以外にも同じ誕生日の人がいるんだと思うと、なんだか嬉しい。
 それにしても、29日生まれの顔はあたし! みたいな仕上がりの放送になっちゃってるけど、これは流石に分不相応なんじゃ……なんてことを考えていたら、予想外の名前が耳に飛び込んできた。

『そしてなんと、男プリのマリオさんも29日がお誕生日! おめでとうございま~す♪』
「……え?」

 ケーキを口に運ぶ手が、思わず止まる。
 ちょっと待って、マリオって、あたしと一緒の誕生日なの……?

「へ〜、マリオもあまりと一緒の誕生日なんだねぇ」
「うん、なんか、そう……みたい……?」
「……もしかしてあまり、知らなかったぷり?」

 みれぃの問いかけに、あたしは黙って小さく頷いた。思い返せば、あたしはマリオの誕生日について設定を考えた記憶がないのだった。


 忘れ物をしてきた、なんて見え透いた嘘をついて、あたしは一人広場を抜け出し、プリパラの森にやって来た。ここに来れば、マリオに会えるような気がしたのだ。
 崖に座って、ゆっくりと沈んで行く夕陽を眺める。さっきまでたくさんの人に囲まれてたのは幻だったんじゃないかと思うくらい、辺りはしんと静まり返っていた。寂しくないと言えば嘘になるけど、どこか懐かしくて落ち着くような気分でもあった。プリパラに来る前はずっと、こんな風に一人で過ごすのが当たり前だったから。
 マリオの姿を見つけられないまま、きっともうすぐ閉園時間がやってくる。いい加減もう諦めて帰ろうかな、と思って立ち上がろうとした瞬間、背後からあいつの声が聞こえた。

「俺のこと待ってたんだろ? あまり」
「ま、マリオ……!」

 いつもは呼んでなくても勝手に現れるくせに、こういう時に限って登場が遅いのが小憎たらしい。

「今日、お前の誕生日だったんだってな」

 そう問いかけてきたマリオは、おめでとうとかそういう言葉をかけるでもなく、あたしの頭をくしゃっと撫でた。
 マリオはいつもあたしに無遠慮に触れてくるけど、その手つきには時々、慈しみのようなものが混じっているような気がすることがあって、その度にあたしの心臓は、ぎゅっと捻れるみたいに痛む。

「……ねえ、マリオ」
「あン?」
「あたし、今日、すっごいたくさんの人に誕生日を祝ってもらえたんだ……家族以外から祝ってもらったの、かなり久しぶりだった」
「そーかそーか、よかったな」
「でも、マリオは? あんたも今日が誕生日なんでしょ……?」

 あたしがそう訊ねると、マリオは黙ってあたしの目をじっと見つめてから、「知らねーよ」と吐き捨てるように呟いた。

「知らない、って……」
「俺がプリパラに降臨した日も、お前が俺を描き上げた日だって、別にお前の誕生日じゃなかっただろ? あまりが決めてくれた訳じゃねえなら、誕生日なんてどーでもいいぜ……」
「そんなこと言わないでよ!」

 誕生日なんてどーでもいい。マリオのその一言で、なぜかあたしは深く傷ついたような気分になってしまった。まるであたしのことを蔑ろにされたみたいに……どうしてだろう?
 そう考えたのとほぼ同時に、あたしはあることに気が付いて、はっと息を飲んだ。

「そうか、分かった……あんたがあたしで、あたしがあんただから、きっとあたしたち、同じ誕生日なんだ……」
「……まぁ、そうかも知れねーな」
「それなら尚更、あんただって祝われるべきじゃない。……それとも、祝われて嬉しくないの?」
「覚えのねー日をいきなり誕生日だとか抜かされても、嬉しいとか嬉しくねぇとか以前の問題だろーが」

 減らず口を叩くマリオが気に食わなくて眉間にシワを寄せていると、マリオがペチンとあたしにデコピンをした。

「そんな変な顔すんなよ、あまり~……今日はお前の誕生日で、お前は祝福されるべき、それで十分じゃねえか、なあ?」
「……じゃあなんでこんなギリギリまで来てくれなかったの」
「漆黒の闇が世界を統べる時間……それが俺の領域だ。そこに引き寄せられるのも、お前の運命(さだめ)だろ?」
「また訳わかんないこと言っちゃってさあ……」

 呆れるあたしと対照的に、マリオは得意げに鼻で笑っている。

「つーか、そもそも誕生日ってそんなに良いもんなのか?」
「……うん、こんなあたしでも、生まれてきてよかったーって思える日だったよ、特に今日はね」

 そう言いながら、マリオもあたしと同じような気持ちになってほしいと思った。生まれて来てくれてありがとう、って、ハッキリまっすぐ伝えるのは、今のあたしにはまだ少し難しいけど、それでも。

「あのさ、マリオ……その、消えてほしいって思っちゃったこともあったけど、あんたが生まれたことにも意味があるっていうか、だから……」
「あまりだけがそう言ってくれりゃいいんだよ、俺は」

 マリオが被せ気味にそう言う。こいつは本当に、どこまでも自分とあたしのことばっかりだ。

「……わかった。大勢から祝われるのが嫌なら、あたしだけでも祝うから……だからもう、どうでもいいなんて言わないで」

 いつの間にか、すっかり日もくれてしまった。マリオはあたしの方を見ているけど、その表情は闇に紛れて、いつにも増してよく見えない。

「誕生日おめでとう、マリオ」

 そう伝えた瞬間、マリオはポンと音を立てて、小さなウサギのマスコット姿になってしまったのだった。

 

 

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